#10.5 ねがいごと

「ところで、こたろー」
「ん?」
「何でヴェルちゃんがお家出て行ったって分かったの?」

一度は虎太郎に連絡しようと思ったが、結局ヴェルが自分でどうにかしようとして止めた筈だ。
ディルと雀が喧嘩している事をどうして知ったのか、ヴェルはとても不思議に思っていた。

「ん…まぁ、虫の知らせってやつだ」
「虫…?」
「勘だ。勘」
「えー!すごーい!」
「ってのは嘘で、ホントのとこは武士のお陰だ」
「…嘘つき。ヴェルちゃんの”すごーい”返せ!」

そう言いながら、ヴェルは虎太郎の耳を引っ張った。
しかし、その力は動物の甘噛みと同じ。
ヴェルが本気を出したところで堪える訳では無いが、更に加減された力はとても弱くて虎太郎は全く痛くない。

「さっきの仕返しだ。有難く受け取っとけ」
「むー。…じゃぁ、武士は何で分かったの?」
「スクルドの予言で、俺が雀の家に行かなきゃなんねーって出たんだってよ」
「へー」
「力が体に馴染んで来たのか知らねえが、最近じゃ意識しなくても予言が浮かぶことがあるって。良い事なんだか悪い事なんだかな」
「スーちゃん…」

子供なりにも、スクルドの持つ力の怖さの事は理解しているつもりだ。
普通に今を生きている人の死の瞬間を、事前に知ってしまうのはどんなに怖いだろう。
例えば両親や妹、雀や虎太郎が死んでしまう日を知ってしまったとしたら。
胸が張り裂けそうになるに違いない。
何とか助けようと奔走するに違いない。
泣き叫んで、縋り付いて…

「…まぁ。アイツには武士が付いてる。あんだけ過保護に扱われてんだから大丈夫だろ。それに、スクルドは”元々”強い奴だかんな」
「…うん。そだね」

ヴェルが白虎の首にしがみついて頬を寄せると、掌やお腹から虎太郎の体温を感じる。
柔らかい毛が頬や首筋にあたってくすぐったい。

どうか。
長く。
気が遠くなるほど長く。
皆が笑って生きていられますように。



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